EXPORT MODEL ca.1950
Standard Chair No. 305は、ジャン・プルーヴェの代表作として知られ、20世紀の工業デザインと建築思想を象徴する作品のひとつです。
その中でも本作は、1950年代にフランス・ナンシーのLes Ateliers Jean Prouvé(ジャン・プルーヴェ工房)にて製作され、モーリタニア北西部に建設された鉱山都市Cité Cansado(シテ・カンサド)のために輸出された希少な個体であり、背もたれの背面には手書きのレターが残された非常にユニークな作品です。
シテ・カンサドは、モーリタニアの鉄鉱石採掘を担うMIFERMA社(La Société des Mines de Fer de Mauritanie)のために、1959〜1963年にかけて建設されました。プロジェクトの全体設計を担当したのは建築家ジャン・ディミティエヴィッチ(Jean Dimitijevic)で、労働者とその家族のための750戸の住宅とインフラが整備されました。
内装設計は、同時期にステフ・シモン・ギャラリーに所属していたシャルロット・ペリアンに委託され、住居というスケールにおいて彼女が家具・収納・空間構成のすべてを手がけた数少ないプロジェクトとされています。
Les Ateliers Jean Prouvéで制作されたジャン・プルーヴェの家具はカンサドへ導入され、彼の合理性・耐久性・構造美の哲学がそこに反映されています。
Standard Chair No. 305はプルーヴェの構造美を体現するプレススチール製の後脚と、オーク材の化粧合板による緩やかに湾曲した座面と背もたれを持ちます。背脚はエアロダイナミックに広がり、シルエットを定義するように重心を与えます。一方で、前脚はより軽やかで控えめな幾何学的表現にとどめられており、前後の構造的コントラストが彫刻的な緊張感を生み出しています。しかし、そのフォルムはいずれも視覚的効果を狙った装飾ではなく、すべてが機能に根ざした造形であり、荷重のかかる箇所には強度と安定性を、負荷の少ない部分には軽快さと簡素さを与えることで、最小限の素材で最大限の強度と美しさを両立させています。プルーヴェにとって、美とは装飾ではなく、構造そのものが語る必然のかたちだったのです。
プレス鋼板脚と成形合板というシンプルな構成でありながら、極限まで削ぎ落とされた構造美・機能美を体現するこの椅子は、プルーヴェの設計哲学を象徴する傑作のひとつです。
フレームはオリジナルのまま一切上塗りされておらず、当時の工業的質感とパティナがそのまま保存されています。
今日に残るシテ・カンサド由来の個体は極めて稀少であり、極めて価値の高い歴史的プロトコルを宿す作品です。
PROVENANCE: Cité Cansado, Mauritania.
SIZE: W40.5 × D51 × Seat Height 46 cm
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